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リョナラー連合主催バトルロワイアル(パロロワ) 040.二人目のドンブラコ

「グルルル……!」

ルルフェを撃退し、ゲイルと別れたトロールは
北へと足を進めていた。

その巨体が地面を踏みしめる度にドシンドシンと
足音が響き、もし近くに参加者がいたのなら
その迫力に震え上がったことだろう。

……もっとも、それは普通の参加者なら、の話だが。

「……おっきいオジチャン、足音うるさいよぉっ!
 もうちょっと静かに歩いてよぉっ!」
「……グル?」

ふと、トロールに声をかける者がいた。
その幼く可愛らしい声はトロールの足元から聞こえてくる。

トロールが足元に目を向けると、そこには人間の子供よりも
さらに小さい、幼い人形のような少女がクマのぬいぐるみを
両手で抱き締め、トロールをジト目で睨んでいた。

恐怖の精霊スペクターの少女、ベアトリスである。

「ベアトリス、クマちゃんとお話がしたいんだよっ!
 でも、オジチャンがうるさいせいでお話ができないのっ!」
「グル……」

きゃんきゃん騒ぐベアトリスを無視して、
トロールはベアトリスにジロジロと視線を這わせる。

「ちょっと、オジチャンっ!聞いてるのっ!?」

人形のように整った顔立ち、長く綺麗な金髪、
鈴を転がすような可憐な声。

「……グフッ!」

トロールは醜い顔をニヤリといやらしく歪める。
どうやら、彼はベアトリスを気に入ったらしい。

トロールはベアトリスを捕まえるために、
ベアトリスに向かって、その太く大きな腕を伸ばす。

……しかし、ベアトリスはその容姿からは想像もできない
素早く無駄のない動きであっさりとその腕を回避した。

「グルっ!?」

トロールは驚愕する。
まさか、こんなか弱そうな少女が自分の腕から
あっさり逃げてしまうとは思わなかったのだ。

しかし、この結果は当然である。
ベアトリス……恐怖の精霊スペクターの魔物としての強さは
最上位に位置し、相手を発狂させる恐ろしい声の力も含めると、
現在確認されている魔物の中でもトップ10に入るほどの実力なのだ。

その幼く可愛らしい外見に騙されると、
痛い目を見る程度では済まされない。

「っ、いきなり何するのっ!?
 オジチャンのエッチっ!」

一方、ベアトリスはいきなり自分に向かって
手を伸ばしてきたトロールに警戒し、距離を取る。

「グルルル……!」

トロールはそんなベアトリスに近づいていく。
今度こそ、この可愛らしい少女を捕まえてやると
鼻息を荒くしながら。

そのトロールの様子に、ベアトリスは癒しのテディベアを
抱き締めて、怯えた顔になって後ずさる。

「こ……来ないでよっ……!?
 オ……オジチャンなんか、キライっっ!!」

ベアトリスが叫ぶと同時に、その声が発狂音波となって
トロールを襲う。

「……グガッ!?」

ベアトリスの動きに驚きつつも、未だに彼女を警戒はしていなかった
トロールはそれをまともに喰らって、発狂してしまう。

「……グガアアアァァァァアァァァァァッッッ!!!」

そして、発狂したトロールは本能の赴くままに、
ベアトリスに向かって襲い掛かった。

……要するに、発狂しても行動はまったく変わらなかった。

「ひっ……!?やっ……いやああぁぁぁぁっっ!!?」

その結果に驚いて怯えたのは、他ならぬベアトリスだ。

今まで彼女が発狂させてきたのは主に人間であり、
その発狂のパターンは大体、近くの仲間を攻撃し始めるか、
怯えて動けなくなるか、そのまま気絶するかのいずれかだったのだ。

しかし、目の前のトロールは発狂させたにも関わらず
目を血走らせ、叫びながらベアトリスへと向かってくる。

「いやああぁぁああぁぁぁぁぁぁっっ!!?
 やだやだやだあぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっっ!!
 来ないで来ないで来ないでええぇぇぇぇぇっっ!!
 うああああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁんっっ!!」

ベアトリスは恐怖に泣き叫び、トロールから逃げ出した。

その強さはともかく、精神的には幼い少女であるベアトリスは
自分に向かって悪鬼のような形相で迫ってくる巨人の恐ろしさに
耐え切れなかったのだ。

……しかし、当のトロールは既に倒れて気絶していた。

ベアトリスが逃げる前に泣き叫んだことで再び発狂音波が発生し、
それを受けたトロールは精神ダメージが限界に達して気絶したのだ。

ベアトリスはそれに気が付かずに怯えて泣き叫び、逃げ続ける。
平原を駆け抜け、森を走り抜け、そして……


ばっしゃーんっっ!!


「……がぼっ!?げほっ、がぼぼっ……!?」

ベアトリスは川に落ちてしまった。
ちなみに、彼女は泳げない。

(……くっ……苦しいっ……!
 死ぬっ……!死んじゃうぅっ……!)

水の中で呼吸ができず、ベアトリスはもがき苦しむ。
しかし、泳ぎ方を知らない小さな身体でもがいたところで
川の流れは容赦なくベアトリスを飲み込んでいく。

(……ク、マ……ちゃ……ん……)

意識を失う前にベアトリスが最後に考えたのは、
胸に抱いたクマのぬいぐるみのことであった。

今度はけっして離れ離れになることのないように、
ぎゅっとクマのぬいぐるみをしっかり抱き締めて、
ベアトリスは意識を失った。




ナヤマ一族の少女シオンを保護したルルフェは、
焚火で服を乾かしながら、シオンと情報交換をしていた。

「……なるほど、マユラ、ホノカ、ヒカリの三名が
 貴女と同じナヤマ一族であり、安全な人物と……」

濡れたローブの裾を絞りながら、ルルフェはシオンに確認する。

「うん……あと、マユラお姉ちゃんは魔術師で、
 ホノカお姉ちゃんは剣士なの」
「……ヒカリという方は?」
「……ヒカリちゃんは、よく分かんない。
 武術のお稽古とか、お勉強とか、よくサボってたみたいだし、
 あんまり剣とか魔法とかは得意じゃないんじゃないかな。
 ……あっ、でも、ヒカリちゃんは隠れるのは得意なんだよ!
 ヒカリちゃんが本気で隠れたら、誰も見つけられないんだから!」

慌ててフォローの言葉を付け足したシオンの様子を見て、
ルルフェは心の中で溜息を吐く。

(……ヒカリという方は、あまり役に立ちそうにないですね)

とはいえ、参加者の情報が一気に三人も手に入ったのはありがたい。
三人とも殺し合いに乗るような人物ではないとのことだし、
シオンと共に行動していれば、その三人と出会ったときにも
信用を得られるだろう。

シオンが転がり込んできたときはどうなることかと思ったが、
シオンの情報と繋がりはルルフェにとって十分なメリットだった。

それに、シオンの支給品に魔力を回復する活力の霊薬が
二つ入っていたことも運が良かった。

助けてくれたお礼にシオンが活力の霊薬を譲ってくれたので、
先ほどまで唯一の回復アイテムの消費を躊躇っていたルルフェは
すぐに自分の傷をヒーリングで回復し、ハイネクタルを飲み干して
魔力を回復したのだった。

傷も魔力も回復し、疲労もそこそこ取れたルルフェは
服がそれなりに乾いたことを確認すると、移動の準備を始める。

「……そういえば、ナヤマ一族は生まれつき特殊な能力を持つと
 聞きましたが、シオンたちはどんな力が使えるのですか?」
「えっと……ごめんなさい。
 私はまだ力を使えないし、他の人の力はよく知らないの。
 私たちの力ってイメージが大切みたいで、子供の頃に
 あんまり他の人の力を見て、イメージを偏らせるのは
 良くないからって……」
「……ふむ、なるほど」

シオンの説明を聞く限り、ナヤマ一族の扱う能力は
個人個人の感性によってその性質を変化させるようだ。

他の三人のナヤマ一族の力について情報を得られなかったのは残念だが、
これについては実際に出会ったときにでも聞けば問題は無いだろう。

「……では、そろそろ移動しましょう。
 焚火を始めてかなり時間が経ちましたし、
 ここに留まり続けるのは危険です」
「……うん……。
 ?……ねえ、ルルフェお姉さん……」
「どうしました、シオン?」
「……アレって、何かな……?」
「アレ?」

シオンが指差したほうにルルフェが視線を向けると、
何かが川を流れてくるのが見えた。

やがて、その何かはルルフェたちの傍の川の畔に流れ着いた。

「……シオン、下がっていてください。
 私が確認してきます」
「う、うん……気を付けて……」

ルルフェは焚火から明かりとして薪を一本拾って、
慎重に川の畔へと近づいていく。

流れ着いた何かが薪の火の明かりで照らされる。
それはクマのぬいぐるみを抱き抱えた、人形のような
小さな少女の姿をしていた。

(なっ……!?スペクターっ!?)

ルルフェは流れ着いたものの正体に驚愕し、顔を青くする。
冒険者であるルルフェは、スペクターの発狂音波のせいで
全滅した同業者の話を数えきれないほどに噂に聞いており、
スペクターの恐ろしさを嫌というほどに知っていた。

どうやら気絶しているようだが、だからといって
確実に仕留められるとは限らない。
スペクターの身体能力はその容姿からは想像できないほどに
恐ろしく高いのだ。
もし一撃で仕留められなければ、白兵戦が不得手なルルフェでは
目を覚ましたスペクターに殺されてしまうだろう。

(くっ……!どうして、こう、次から次へと厄介ごとが……!)

ルルフェは胸中で己の不運を呪う。
しかし、すぐにシオンの支給品の中にちょうど良いものが
あったことを思い出す。

ルルフェは足音を殺して、ゆっくりとシオンのところまで戻っていく。

顔を真っ青にして戻ってきたルルフェに、シオンは驚く。

「ど……どうしたの、ルルフェお姉さん……!?
 なんか、すごく青い顔してるけど……!?」
「いえ、大丈夫です……それよりも、貴女の支給品を
 借りても良いですか?」
「え……?う、うん……」

ルルフェの言葉に、頷くシオン。
シオンの許可を得たルルフェは、シオンの袋から首輪を取り出す。

ルルフェが取り出した首輪の名前は、生贄の首輪。
これを着けられた者はその身体能力を極限まで下げられ、
魔法や特殊能力も全て封じられる。
そして、この生贄の首輪は首輪を着けた者にしか
外すことができないという凶悪な魔道具だった。

(……これをあのスペクターに着けることができれば、
 とりあえずの脅威は解決できます……。
 スペクターの処遇はその後に考えましょう……)

ルルフェは首輪を手に持ち、再びゆっくりと
気絶したベアトリスに近づいていく。

そして、慎重に生贄の首輪をその白く細い首に近づけ……。

「……ん……んん……」
「っ!?」

身じろぎするベアトリスに、ルルフェの心臓が跳ね上がる。

(起きるな、起きるな、起きるな、起きるなっっ!!?)

冷や汗を流しながら、ルルフェは胸中でひたすらに
『起きるな』と繰り返し、必死に祈る。

ルルフェの祈りが届いたのか、ベアトリスは身じろぎをした後は、
そのまま大人しくなった。

それを確認すると、ルルフェは急いでベアトリスの首に手を回し、
首輪を着け始める。

カチャッと金具の嵌まる音がルルフェの耳に心地良く響いた。

(……よしっっ!!)

無事にベアトリスに首輪を着けることに成功した
ルルフェは思わずガッツポーズを取った。

そのことに気が付いたルルフェは少し顔を赤くして咳払いをすると、
ベアトリスを抱えて、シオンの待つ焚火へと戻る。

シオンはルルフェが抱えてきたベアトリスの姿を見て、目を丸くする。

「ルルフェお姉さん、その子は……?」
「……この子はスペクター、恐怖の精霊ですよ。
 今はこの首輪のおかげで危険はありませんけどね。
 それよりもシオン、先ほど言った通りここを離れますよ。
 いい加減に移動しないと、本当に危険ですから」
「え……?でも、その子もびしょびしょだし……。
 焚火で服を乾かしてあげないと風邪ひいちゃうよ……」
「……シオンは優しいですね。
 大丈夫、精霊は人間よりも頑丈ですから」

心配そうにベアトリスを見るシオンに、
ルルフェは適当なことを言ってごまかす。
さすがに、ベアトリスの服まで乾かす時間は無いからだ。

もしこのスペクターの少女が風邪を引いたとしても、
そこは運が悪かったと諦めてもらうしかない。
そもそも、気絶している間に殺されなかっただけでも
彼女は運が良いほうなのだから。

「シオン。すみませんが、この子を運んでくれませんか?
 私が抱えていると、いざというときに動けないので……」
「う……うん、分かった……」

ルルフェの言葉にシオンは素直に頷いて、ベアトリスを抱き抱える。
人形のように小さく軽いベアトリスは、子供のシオンでも
抱き抱えて移動することに問題はなかった。

「……とりあえず、先ほどシオンがいたという
 廃墟に向かいましょうか。
 そこなら、森よりは身を隠しやすいはずです。
 スペクターが目を覚ますまで、そこで休息しましょう」

ルルフェは焚火を消すと、荷物を担いでシオンに行先を告げる。
ついさっき自分が襲われた場所に向かうと聞き、シオンは不安そうな顔になる。

「で……でも、私、あそこで襲われたんだよ……?
 また、怖い人に襲われたりしない……?」
「シオンが襲われたのは、たまたまシオンと襲撃者の
 スタート地点が近かったからだと思いますよ。
 近くに村もあるわけですし、他の参加者からすれば
 わざわざ森の中の廃墟に来る必要なんてないでしょう」
「そ……そっか……そうだよね……」

ルルフェの言葉に納得したシオンは少し安心した様子を見せる。

本当は近くにシオンを襲った参加者がいるはずなので
襲われた現場の廃墟が絶対に安全というわけでもないのだが、
それでも村や焚火をしていたこの場所よりは、危険が少ないはずだ。

先ほどからシオンを言い包めてばかりのルルフェは
胸中でシオンに小さく謝罪しながら、今後について考える。

(まず、このスペクターをどうするかですね。
 目を覚ましたら、情報を聞き出して……
 その後は殺すか、飼うか……)

どちらかといえば、殺してしまった方が安全だろう。
生贄の首輪のような着けた者にしか外せない類の魔道具は
着けた者が死んでしまえば効果を失うものが多い。

もし生贄の首輪がそういった類の魔道具だった場合は、
ルルフェが命を落とした時にスペクターが再び解き放たれ、
多くの参加者を発狂させて大惨事を引き起こすかもしれない。
それを回避するためにも、ここで殺してしまうほうが安心できる。

加えてスペクターを殺した場合は、生贄の首輪を再利用できる。
スペクターの他に危険な参加者を見つけた場合、その参加者を
無力化することが可能になるのだ。

(……とはいえ……)

ルルフェはちら、とシオンを見る。
この幼いナヤマ一族の少女は先ほどのスペクターを気遣う様子からして、
心の優しい少女のようだ。

そんな少女の前でスペクターを殺すのは、いささか忍びない。
そもそもスペクター自体、その傍迷惑な能力を除けば、
比較的温厚な性格の精霊なのだ。

そんなスペクターを生贄の首輪を着けて無力化したにも関わらず、
『場合によっては危険だから殺そう』というのは、いかがなものか。

(……まぁ、スペクターに話を聞いてから判断しても、
 遅くはないでしょう……)

もしかしたら、殺し合いに乗った危険なスペクターの
可能性もあるし、逆に博愛精神に充ち溢れた殺し合いなど
絶対に許さない正義のスペクターの可能性もある。

何にせよ、このスペクター自身と話をしないうちに
あれこれと考えても仕方が無いだろう。

そう結論付けたルルフェは、廃墟にたどり着くまでは
周囲の警戒に全力を注ぐことに決めた。


【C-4/川の近くの森/1日目 1:30~】

【ルルフェ@魔術師】
[年齢]:16
[状態]:疲労(小)
[武器]:海の魔女の剣
[防具]:精霊のローブ(半乾き)
[所持品]
・ルルフェの袋
 ・基本支給品一式
 ・活力の霊薬×2
[思考・状況]
1.この場から移動する
2.シオンと一緒に行動する
3.アルフィを探す
4.マユラ、ホノカ、ヒカリは安全と認識
5.スペクター(ベアトリス)から話を聞き、場合によっては……

※シオンと情報を交換しました。


【シオン@ナヤマ一族】
[年齢]:7
[状態]:疲労(小)
    ベアトリスを抱き抱えている(そのため服が若干濡れている)
[武器]:なし
[防具]:なし
[所持品]
・シオンの袋
 ・基本支給品一式
 ・(不明の武器)
[思考・状況]
1.ルルフェと一緒に行動する
2.マユラ、ホノカ、ヒカリを探す
3.アルフィは安全と認識

※ルルフェと情報を交換しました。
※右肩の打撲はルルフェに治してもらいました。


【ベアトリス@恐怖の精霊スペクター】
[年齢]:不明
[状態]:気絶、ずぶ濡れ、疲労(中)、生贄の首輪により無力化
[武器]:なし
[防具]:癒しのテディベア、生贄の首輪(着:ルルフェ)
[所持品]
・ベアトリスの袋
 ・基本支給品一式
 ・(不明の武器・防具・道具)
[思考・状況]
1.クマちゃんが戻ってきて安心
2.おっきいオジチャン(トロール)こわい

※生贄の首輪により身体能力が著しく低下し、
 魔法と特殊能力が封じられています。
※カナヅチです。泳げません。



【B-5/平原/1日目 1:30~】

【トロール@巨人モンスター】
[年齢]:不明
[状態]:気絶、ダメージ(小)、精神ダメージ(中)
[武器]:なし
[防具]:なし
[所持品]
・なし
[思考・状況]
1.参加者を襲う


『参加者・ジョーカーの現在地』  ※マリシアの現在地は不明
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